事業で使用している固定資産を売却した時の税金について~ 事業所得?譲渡所得?~
こんにちは。福岡県久留米市の公認会計士税理士 豊岡春樹です。
事業で使用している固定資産を売却した時、「この収入は事業所得になるのかな?それとも譲渡所得になるのかな?」と疑問に思うことはありませんか?
実は、 固定資産の売却収入は、単純に事業所得になる場合と譲渡所得になる場合があり、その判断は少し複雑 です。
この記事では、事業で使用している固定資産の売却収入が、事業所得になる場合と譲渡所得になる場合の違いについて、具体的に解説していきます。
マインドマップ
当記事の内容をマインドマップにてまとめました。
適宜ご参照いただけますと幸いです。
固定資産売却の基本は「譲渡所得」
所得税法では、原則として資産の譲渡によって得た所得は「譲渡所得」 とされています。(所得税法第33条1項)
しかし、すべての資産の譲渡が譲渡所得になるわけではありません。
事業所得になるケース:棚卸資産など
所得税法第33条2項では、以下の所得は譲渡所得に含まれないと規定しています:
・たな卸資産(および政令で定める準ずる資産)の譲渡
・営利目的で継続的に行われる資産譲渡
・山林の伐採または譲渡
つまり、事業を営む上で仕入れたり、製造したりした商品や製品を売却した場合は、その利益は「事業所得」 となります。
ここまでは「そりゃそうだよね」と何となく直感的に理解できますよね。
ただ、着目して欲しいのが下記です。
棚卸資産以外にも、所得税法施行令第81条 において、以下の資産が棚卸資産に準ずるものとして、事業所得の対象 とされています。
- 不動産所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務に係る棚卸資産に準ずる資産
- 少額の減価償却資産 (取得価額が10万円未満のもの) で、業務の性質上基本的に重要でないもの
- 一括償却資産 (取得価額が10万円以上20万円未満のもの)で、業務の性質上基本的に重要でないもの
すなわち、金額が小さい固定資産で、業務上も重要でない固定資産は、「事業所得」として計上して良いということになります。
譲渡所得になるケース:少額重要資産など
上記で説明した事業所得のケースに当てはまらない固定資産の売却は、譲渡所得として扱われます。
具体的には、「取得価額が20万円以上となるもの」または「業務の性質上基本的に重要なもの」 とされる 「少額重要資産」 が該当します。
少額重要資産とは、製品の製造、商品の販売、役務の提供など、事業の目的を達成するために直接必要で、業務遂行上欠かすことのできない減価償却資産 のことを指します(所得税法基本通達33-1の2)
例えば、機械装置、運搬車、工具などが挙げられます。
ただし、少額重要資産であっても、事業の性質上、反復継続して譲渡することが通常とされるもの は、譲渡所得ではなく 事業所得 となります。
具体的には、貸衣装業における衣装類、パチンコ店におけるパチンコ台、養豚業における繁殖用又は種付用の豚などが挙げられます。
事例
例えば、事業で利用している車を下取りに出した場合の所得区分について考えてみましょう。
車は基本的に高額であることから取得価額は20万円を超えると予想されます。
また、車はお客様のところに訪問する際に必要なものであり、業務上欠かすことができないものと考えられます。
そのため、事業用の車の下取り収入は、「譲渡所得」の収入となると判断できます。
ただ、車を継続的に販売している場合(例えば中古車販売事業者)等は、車自体が棚卸資産となるため、「事業所得」になります。
裁決事例
応用的にはなりますが、参考になる裁決事例がありましたため共有いたします。
リース業を営む者が、リースの用に供していた機械等の資産を譲渡したことによる所得の所得区分は、譲渡所得には該当せず、事業所得に該当するとした事例
請求人は、機械等のリース・販売等を営み、リースの用に供していた減価償却資産を譲渡したことによる所得は、[1]本件リース用機械の販売に関し、不特定多数の顧客に広告宣伝を行った事実はなく、当該機械を販売するための人的・物的設備は不要であること、[2]当該機械の販売は、臨時的・偶発的に行われたものであること等から、譲渡所得に該当する旨主張する。しかしながら、請求人のリース業の性格上、そのリース用機械を取得してリースの用に供した後に当該リース用機械を譲渡したとしても、その譲渡行為は、リース用機械に係る所有権の行使の一態様として、これを譲渡したにすぎないものと認めることが相当であり、リース業に付随して経常的に派生していることからしても、請求人は営利を目的として継続的にリース用機械の譲渡を行ったものと認められることから、本件リース用機械を譲渡したことによる所得は、譲渡所得には該当せず、事業所得に該当する。
平成8年5月23日裁決
まとめ
事業で使用している固定資産を売却した時の所得区分は、その資産が棚卸資産に該当するか、少額重要資産に該当するか、あるいは事業の性質上反復継続して譲渡することが通常とされるかなど、様々な要素を考慮して判断 する必要があります。
そのため、固定資産の売却を検討する際には、安易に事業所得として判断することなく、慎重に判断する必要があるということに注意しましょう。
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