クラウドサービスの初期導入費用、会計処理はどうする?繰延資産計上のポイント
福岡県久留米市の公認会計士・税理士、豊岡春樹です。
近年、業務効率化やリモートワークの推進に伴い、多くの企業様でクラウドサービスの導入が進んでいます。
会計ソフト、顧客管理システム、営業支援ツール、グループウェアなど、その種類は多岐にわたります。
これらのクラウドサービスを新たに導入する際、初期設定やデータ移行、操作研修などの導入サポートを外部の専門業者に依頼するケースも少なくありません。
この「初期導入費用」、会計処理や税務上の取り扱いに迷われる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
本記事では、クラウドサービスの初期導入費用に関する会計処理と税務上の注意点について、具体的な根拠条文も交えながら分かりやすく解説します。
クラウドサービスの「初期導入費用」とは?
まず、「初期導入費用」とは具体的にどのようなものを指すのでしょうか。一般的には、以下のような費用が該当します。
- コンサルティング費用: どのサービスが自社に適しているか、どのように活用すべきかといった導入計画に関する相談費用
- 初期設定費用: アカウント設定、ユーザー登録、権限設定、各種カスタマイズなど、サービスを利用可能な状態にするための作業費用
- データ移行費用: 既存システムから新しいクラウドサービスへデータを移管する作業費用
- 操作研修費用: 従業員がスムーズにサービスを使いこなせるようにするためのトレーニング費用
- その他導入支援費用: 上記以外で、サービス導入のために一時的に発生する専門家への支払い
これらの費用は、月々のサービス利用料とは別に、導入時に一括で請求されることが多いのが特徴です。
原則:「繰延資産」として資産計上
クラウドサービスの導入に伴う初期費用で、請求書に「初期導入費用」「導入コンサルティング費用」などとして月々のサービス利用料とは明確に区分して記載されている場合、
その費用は原則として「繰延資産(税法上の繰延資産)」として資産計上します。
これは、「初期導入費用」が繰延資産の範囲である「役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用」に該当するためです。
簡単に言えば、「初期設定をしてもらったことで、今後長期間にわたってそのクラウドサービスを便利に使えるようになった」という効果(便益)に対して支払った対価と考えるわけです。
根拠条文:
・法人税法施行令第14条第1項第六号ハ
・法人税法基本通達8-1-6
・所得税法施行令第7条第1項第三号ハ
・所得税法基本通達2-28
例外:20万円未満の場合は費用処理が可能
ただし、支出する金額が20万円未満である場合には、その全額を支出時の費用として処理することが認められています。
これは「少額繰延資産の特例」と呼ばれるものです。
根拠条文:
・法人税法施行令第134条
・所得税法施行令第139条の2
償却期間の考え方
繰延資産として計上した場合、その効果が及ぶ期間にわたって費用化(償却)していくことになります。
- 原則は「5年」で償却
クラウドサービスの初期導入費用のような、いわゆる「役務提供を受けるための権利金その他の一時金」に該当する繰延資産の償却期間は、原則として「5年」と定められています。 - 契約期間が定められている場合
例外として、例えば「契約期間は2年間で、契約更新時に再度初期費用と同種の一時金を支払う必要がある」といった明確な定めがある場合は、その契約期間(この例では2年間)で償却します。

注意点:10万円以上の費用をソフトウェアとして固定資産計上しないこと!
初期導入費用が10万円以上になると、ソフトウェアなど固定資産として計上してしまいがちです。
しかし、クラウドサービスの初期導入費用は「繰延資産」が適切な処理となります。
間違った処理をすると、償却期間が異なり、毎年の損益計算に影響が出てしまいますので注意しましょう。
【参考】freee会計での処理方法
会計ソフトによっては、繰延資産の償却計算を自動で行ってくれる便利な機能があります。
例えば、「freee会計」には「前受/前払入力アプリ」という機能があります。
このアプリを利用すれば、償却期間や金額を入力するだけで、毎月の償却額を自動で計算し仕訳を作成してくれるため、手作業による計算ミスや記帳漏れを防ぎ、効率化が期待できます。
5年間にわたる償却を手入力で行うのは手間がかかりますので、自動化できる部分は積極的に活用しましょう!!
まとめ:クラウド初期費用の会計処理のポイント
クラウドサービスの初期導入費用に関する会計処理のポイントは以下の通りです。
- 原則は「繰延資産」として計上(月額利用料と区分されている場合)
- 20万円未満の場合は、全額を支払時の費用として処理可能
- 繰延資産の償却期間は、原則「5年」(契約期間が明確で更新時に再支出がある場合はその期間)
- 「ソフトウェア」として固定資産計上しないよう注意
クラウドサービスの利用は今後ますます拡大していくと予想されます。
適切な会計処理を行い、正確な月次決算・年次決算につなげましょう!
投稿者プロフィール

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久留米市の若手公認会計士・税理士です!
freee会計を活用し、中小法人・スモールビジネスの記帳や確定申告の負担を軽減し、本業に専念できる環境づくりを支援しています。
創作活動に励む漫画家・同人作家の方からのご相談も多数いただいており、柔軟かつ丁寧な対応を心がけています。