【漫画家、同人作家向け】税理士へ確定申告のみを依頼する場合の考え方について

こんにちは。
福岡県久留米市の公認会計士・税理士、豊岡春樹です。

漫画家や同人作家として活動されている方の中には、「確定申告だけ税理士に依頼したい」とお考えの方も多いかと思います。

しかし、税理士の立場からすると、確定申告「のみ」のご依頼を積極的にはおすすめしづらいケースがあるのも事実です。
もちろん、それが最適な選択となる場合もあります。

この記事では、なぜ「確定申告のみ」の依頼が必ずしもベストとは言えないのか、そして、どのような場合にそれが有効なのか、漫画家・同人作家の皆さんがより安心して創作活動に集中できるよう、税理士の視点から分かりやすく解説します。

「確定申告だけ」の依頼、なぜおすすめしづらいの?4つの大きな理由

「ギリギリになってから確定申告だけお願いしたい!」というご相談は、特に12月を過ぎてから多く寄せられます。

しかし、これにはいくつかのデメリットが考えられます。

1. 節税や有利な制度活用のチャンスを逃してしまう可能性

税務上の有利な選択や節税対策には、事前の届出や準備が不可欠なものが多く存在します。

確定申告の直前になってからでは、残念ながら「もっと早くご相談いただければ」となるケースが少なくありません。

代表的な例:消費税の届出

  • 簡易課税制度の選択: 消費税の納税額を計算する際、売上にかかる消費税額だけで仕入にかかる消費税額を計算できる制度です。
    業種によっては納税額を抑えられる可能性がありますが、この制度を利用するには、原則として適用を受けたい課税期間の開始の日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。
  • その他: 青色申告の承認申請(最大65万円の特別控除など様々な特典あり)も期限がありますし、小規模企業共済への加入など、節税に繋がる対策は早期の検討が鍵となります。

2. 税理士報酬が結果的に割高になる可能性

年に一度だけのスポットでのご依頼は、税理士側もお客様の1年間の取引内容や状況を短期間で把握し直す必要があります。

そのため、顧問契約を結んで定期的に状況を把握している場合に比べて、時間と手間がかかり、結果として報酬が割高になる傾向があります。

定期的なコミュニケーションがあれば、お客様の事業規模や取引の特性を理解した上でスムーズに申告作業に入れるため、効率的かつ適切な料金でサービスを提供しやすくなります。

3. コミュニケーション不足による認識のズレが生じやすい

年に一度、しかも申告期限が迫った慌ただしい中でのやり取りでは、どうしてもコミュニケーションが限定的になりがちです。

  • 活動実態の誤解: 創作活動の具体的な内容や経費計上の背景などを税理士が十分に把握できず、適切な判断が難しくなることがあります。
    例えば、「この取材費は本当に事業に必要なのか?」「この画材は趣味の範囲ではないか?」といった細かな点で認識のズレが生じ、意図しない申告結果になる可能性も。
  • 作家側の不安解消が不十分: 税理士からの説明も限られた時間内で行われるため、申告内容について十分に理解・納得できないまま手続きが進んでしまうことも考えられます。

定期的なコミュニケーションがあれば、お互いの理解が深まり、よりスムーズで納得感のある申告に繋がります。

4. ご自身の資料準備の負担が大きくなりがち

年に一度、まとめて1年分の資料(領収書、請求書、売上データなど)を整理し、税理士に提出するのは、想像以上に大変な作業です。

  • 何が必要かわからない: どのような資料を、どのように整理して提出すれば良いのかが不明確なまま作業を進め、結果的に二度手間になったり、必要な資料が漏れてしまったりすることも。
  • 時間的・精神的プレッシャー: 申告期限が迫る中で大量の資料整理に追われるのは、大きなストレスとなります。

顧問契約であれば、日頃から必要な資料を税理士から依頼され、それをこまめに準備することになりますため、確定申告時期の負担を大幅に軽減できます。

安心と節税の両立を目指すなら「顧問契約」という選択肢

税理士と顧問契約を結ぶことで、以下のようなメリットが期待できます。

  • タイムリーな節税対策の提案: 日頃からコミュニケーションを取ることで、節税に繋がる制度や、お客様の状況に合わせた対策を適切なタイミングでご提案できます。
  • 経営・会計に関する相談が気軽にできる: 「この経費は認められる?」「売上が増えてきたけど、法人化は考えた方がいい?」など、日々の疑問や不安をすぐに相談できる相手がいる安心感は大きいです。
  • 正確な月次決算と経営状況の把握: 定期的な帳簿チェックや試算表の作成を通じて、ご自身の経営状況を正確に把握でき、将来の事業計画にも役立ちます。
  • 税務調査への備え: 日頃から適正な経理処理を行っていれば、万が一の税務調査の際も慌てずに対応できます。税理士が窓口となることも可能です。

税理士がパートナーとして伴走することで、皆さんは安心して創作活動に専念できる環境を整えるお手伝いができます。

白色申告や副業なら「年一依頼」も選択肢に

もちろん、「確定申告のみ」の依頼が全くダメというわけではありません。
特に以下のようなケースでは、年一回のご依頼でも比較的スムーズに対応できる場合があります。

  • 白色申告で活動している場合:
    白色申告は、青色申告のような複式簿記による記帳が義務付けられていません(簡易な方法で可)。
    そのため、青色申告と比較すると、税理士側の確認作業の工数が少なく済む場合があります。
    【参考】国税庁 個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について
  • 副業として漫画・同人活動を行っている場合:
    事業規模が比較的小さく、所得の種類や取引がシンプルな場合は、年一回の対応でも問題ないことがあります。

ただし、ご注意いただきたい点も!

白色申告や副業であっても、初めて税理士に依頼する際には、申告方法の確認、所得の種類(事業所得か雑所得かなど)、経費の範囲、売上の計上方法など、コミュニケーションが必要になります。

そのため、例え年一回のご依頼であっても、できる限り早い段階(理想は~夏、秋頃まで)にご相談いただくことで、よりスムーズで正確な申告が可能になります。

また、将来的に青色申告へ移行したい、事業を拡大したいといったご希望があれば、早めの相談がより重要です。

まとめ:あなたに最適な税理士との付き合い方を見つけましょう

今回は、漫画家・同人作家さんが確定申告のみを税理士に依頼する際の考え方について、私の見解をお伝えしました。

もちろん、税理士事務所の方針は様々で、「年一回の確定申告のみでも大歓迎」という税理士さんもいらっしゃいます。

大切なのは、ご自身の活動スタイルや将来の展望、そして何よりも「安心して任せられる」と感じる税理士を見つけることです。

私の考え方は、あくまで一つの意見として参考にしていただければ幸いです!

しかし、節税の機会を逃さず、安心して創作活動に打ち込むためには、できるだけ早い段階で、信頼できる税理士に相談し、継続的な関係を築くことが、結果として大きなメリットに繋がるケースが多いことを覚えておいていただけると嬉しいです!

投稿者プロフィール

豊岡 春樹
豊岡 春樹
久留米市の若手公認会計士・税理士です!
freee会計を活用し、中小法人・スモールビジネスの記帳や確定申告の負担を軽減し、本業に専念できる環境づくりを支援しています。
創作活動に励む漫画家・同人作家の方からのご相談も多数いただいており、柔軟かつ丁寧な対応を心がけています。