「特定親族特別控除」と 他の所得控除の関係について

こんにちは!福岡県久留米市の公認会計士・税理士、豊岡春樹です!

令和7年12月1日の税制改正施行により、所得税のルールが大きく変わりましたね。

ニュースなどで「年収の壁」の議論を耳にした方も多いと思いますが、今回の改正では「特定親族特別控除」の新設に加え、「給与所得控除」の最低額が65万円に引き上げられる点が非常に重要です。

今回は、これらの改正によって新しく生まれる「123万円の壁」と、それが他の控除に与える影響について解説します。

令和7年分から給与所得控除が「65万円」へ

まず、大前提となる計算のルールが変わります。

アルバイトなどの給与収入から差し引かれる「給与所得控除」の最低額が、従来の55万円から65万円に変更されました。

これにより、同じ年収でも手元に残る「所得金額」が低く計算されるため、税制上のメリットが拡大しています。

新しい計算式

  • 給与収入 - 給与所得控除(65万円) = 給与所得

※参考:国税庁No.1410 給与所得控除

新設される「特定親族特別控除」と対象エリア

この改正に合わせて新設されたのが特定親族特別控除です。

これは、納税者と生計を一にする19歳以上23歳未満の親族(大学生や専門学校生など)を対象としています。

この控除が適用されるお子さんの所得や年収の範囲(特定親族の要件)は以下のようになります。

  • 対象となる合計所得金額:58万円超 123万円以下
  • 「合計所得金額」を「年収」に換算:123万円超 188万円以下(※所得58万+控除65万=年収123万)

つまり、従来であれば扶養を外れていた年収123万円〜188万円のゾーンに対して、新たに控除が適用されることになります。

※参考:国税庁タックスアンサーNo.1177 特定親族特別控除

重要な変更点:扶養の壁は「年収123万円」へ

新しい控除ができる一方で、従来の「扶養親族」としての要件も、所得ベースでは「58万円以下」となります。

これを新しい給与所得控除(65万円)で年収に換算すると、扶養親族として認められるラインは年収123万円以下となります。

これまでの「103万円の壁」のイメージをお持ちの方も多いと思いますが、令和7年分以降は、この「123万円」が運命の分かれ道となります。

年収による適用制度の違い(令和7年分以降)

親族の給与収入(年収)合計所得金額適用される制度
123万円以下58万円以下従来の控除(扶養控除など)
123万円超 〜 188万円以下58万円超 〜 123万円以下特定親族特別控除(新設)
188万円超123万円超適用なし

要注意!年収123万円を超えると「使えなくなる」他の控除

さらに注意が必要なポイントがあります。

年収123万円(所得58万円)までは扶養内(従来の控除)」ですが、それを1円でも超えて「特定親族特別控除」の対象ゾーンに入ると、従来の「扶養親族」であることを前提とした他の控除が使えなくなります。

具体的には、以下の控除に影響が出ます。

1. 扶養控除・控除対象扶養親族

年収が123万円(所得58万円)を超えた時点で「控除対象扶養親族」ではなくなるため、従来の扶養控除は受けられません。

19歳以上~23歳未満の場合、代わりに特定親族特別控除を受けることになります。

※参考:国税庁タックスアンサーNo.1180 扶養控除

2. 障害者控除

障害者控除は本人が障害者であるほかに、「同一生計配偶者または扶養親族」が障害者である場合にも適用されます。

年収が123万円(所得58万円)を超えると同一生計配偶者及び扶養親族の要件から外れるため、たとえ障害をお持ちであっても、納税者はその親族分の障害者控除を受けられなくなります。

※参考:国税庁タックスアンサーNo.1160 障害者控除

3. ひとり親控除

ひとり親控除を受ける要件の一つに「生計を一にする子(所得要件あり)」があります。

子供の年収が123万円(所得58万円)を超えると、この要件を満たさなくなるため、納税者本人(親)のひとり親控除の適用ができなくなります。

※参考:国税庁タックスアンサーNo.1171 ひとり親控除

4. 寡婦控除(離婚の場合)

夫と離婚した後に再婚していない方が受ける寡婦控除(控除額27万円)です。

離婚による寡婦控除を受けるためには、「扶養親族を有すること」という要件があります。

この「扶養親族」と認められる条件も「年収が123万円(所得58万円)」です。

もし、対象としている子供や親族の年収が123万円を超えると、「扶養親族」がいなくなったとみなされ、お母様ご本人の寡婦控除が適用できなくなります。

※参考:国税庁タックスアンサーNo.1170 寡婦控除

5. 所得金額調整控除

年収850万円を超える給与所得者が受けられるこの控除は、「23歳未満の扶養親族」がいることが要件です。

ここでも「扶養親族」であることが求められるため、子供の年収が123万円(所得58万円)を超えると要件を満たさなくなり、調整控除が適用できなくなります。

※参考:国税庁タックスアンサーNo.1411 所得金額調整控除

まとめ:新しい「123万円の壁」とバケツリレー

今回の改正を整理すると、以下のようになります。

  1. 親族の年収が123万円(所得58万円)という境界線の下にあれば、「扶養控除」や「ひとり親控除等の要件となる子」が入るバケツに入ります。
  2. しかし、ひとたび境界線を超えて年収123万円超〜188万円以下のゾーンに入ると、その親族は「特定親族特別控除」という別のバケツへと渡されます。
  3. バケツが切り替わると、前のバケツに入っていた特典(障害者控除やひとり親控除など)はすべてリセットされ、新しいバケツのルールしか適用されません。

給与所得控除が65万円に引き上げられたことで、扶養の範囲は実質的に広がりましたが、その境界線を超えた際の影響(他の控除との排他関係)は依然として残ります。

令和7年分以降の年末調整や確定申告では、お子様のアルバイト収入などが、新しい境界線である「年収123万円」を越えているかどうかを、必ず確認するようにしましょう。

投稿者プロフィール

豊岡 春樹
豊岡 春樹
久留米市の若手公認会計士・税理士です!
freee会計を活用し、中小法人・スモールビジネスの記帳や確定申告の負担を軽減し、本業に専念できる環境づくりを支援しています。
創作活動に励む漫画家・同人作家の方からのご相談も多数いただいており、柔軟かつ丁寧な対応を心がけています。